甘い恋飯は残業後に
*
翌日。
わたしが打ち合わせからオフィスに戻ると、何故か水上ちゃんの席の辺りに人が群がっていた。
「どうしたの?」
「ああ、万椰さん! これ、取引先の方にいただいたんですよ。見て下さい、あの『Queue(キュー)』のダックワーズですよ!」
『Queue』といえば、有名なチョコレートの高級ブランドだ。記憶が確かなら、そこのダックワーズは数量限定品だったはず。
「これは十二個入りだから、おそらく五千円超えかなぁ」
周りにいた人達は、水上ちゃんの言葉にどよめいている。高級ブランドで限定品なら、その値段でもおかしくはないだろう。
「さあ、万椰さんも揃ったし、配りますよー!」
歓声と共にわらわらと、水上ちゃんの前に一斉に手が差し出される。わたしは、余ったらでいいや、とその様子を水上ちゃんの背後から静観していた。
「ああ、万椰さんも貰って下さいよ。はい」
水上ちゃんは振り向いて、わたしの手にもダックワーズを乗せた。シンプルなパッケージの中に、チョコレートクリームを挟んだそれがころりと入っている。