甘い恋飯は残業後に
「あ、一個余っちゃったな……」
「それなら、水上ちゃんが貰っちゃえばいいよ」
今、オフィスにいる若手の社員にはもうみんな行き渡っている。水上ちゃんが一個多く貰うことに文句をいう人間はいないだろう。
が、彼女は「うーん」と唸っている。
「これ、万椰さんが貰って下さい」
「ええ?!」
「いつも仕事を頑張っている万椰さんには、貰う権利があると思うんで」
意外な理由を並べられて、一瞬、言葉に詰まった。
「……権利っていうなら、取引先の人に貰った水上ちゃんの方があるでしょう」
「いえ、万椰さんが貰って下さい。万椰さんが貰うことに文句を言う人は、このオフィスの中には誰もいないと思うんですよ」
強引に水上ちゃんからダックワーズをもうひとつ、手に乗せられる。水上ちゃんの気持ちはありがたいし嬉しいけど、困ったなと思っていたところに、ふとある考えが浮かんだ。
「わかった。じゃ、このひとつはわたしの好きにさせてもらってもいい?」