甘い恋飯は残業後に
「出発前に、これ」
難波さんは怪訝そうな顔をしている。わたしはバッグから、水上ちゃんに貰ったダックワーズを取り出した。
「チョコレートがとけちゃいそうなので、先にどうかと思って」
「これは、なんだ?」
難波さんはわたしに手渡されたダックワーズを見つめている。
「水上さんが取引先の方から『Queue』のダックワーズをいただいたんです。それで……ひとつ余ったので、難波さんに、と思って……」
「なるほど。余り物を部長の俺に持ってきたんだ」
「いえ、そんな……!」
難波さんを見ると、口許に笑みを漏らしている。どうやら、わたしをからかっただけだったらしい。
「『Queue』か。その取引先は随分と景気がいいもんだな」
「さすが、『Queue』を知ってるんですね、難波さん」
もう開き直ったのか、わたしのからかい半分の言葉にも動じず、難波さんは「もちろん」と答えた。
「めったに口に出来ないものだからな。で、桑原はもう食ったのか?」
「いえ、まだです。ここにあります」
わたしのもバッグから取り出す。チョコレートは何とかとけていないようだ。
「じゃあ、後で一緒に食おう。今はこれにエアコンの風を当てとけば大丈夫だろ」