甘い恋飯は残業後に
店長が接客の為にその場からいなくなってすぐ、難波さんがこちらに戻ってきた。
特に、ニヤけている様子はない。
そんなの、当然といえばそうだ。この人がそんな隙を見せたことなんて、わたしの知る限りでは一度もない。ましてや今は仕事中。難波さんが彼女とどういう関係であれ、公私のけじめはつけるに決まっている。
「……どうした?」
難波さんは怪訝そうな顔でわたしの顔を覗き込んだ。
「何が、ですか?」
「いや、何だか怖い顔してるから」
「えっ?! 怖い顔、ですか? ……ああ、そうだ。店長がわたし達にコーヒーの試飲をしてほしいそうです」
何となく探られそうな空気に、わたしはすぐさま話題を変えた。
――この人に、心の奥まで覗き込まれるのは、嫌だ。
「じゃ、ロッカー室借りるか。今ならスタッフは誰も使ってないだろう」