甘い恋飯は残業後に

「上質なカフェモカを飲んでるような気分だな」


わたしが今、まさに言おうとしていたことだ――。


「そう、ですね」

でも「同じことを思いました」とは言いたくなくて、わたしは当たり障りのない返答をした。素直に言ってもよかった筈なのに。

理由は自分でもよくわからない。今の感情をしいて表すなら、負けず嫌いのわたしがどうしても負けを認めたくない時と似ているかもしれない。


「わざわざ持ってきてくれて、ありがとうな」

難波さんはアイスコーヒーを飲み干すと、改まってそう言った。

「……いえ。でも、本当においしかったですね」

「ああ。めったに食えないもんだから、尚のことうまかったな」


――そうか。

わたしは、彼のこの笑顔が見たかったのか。


口許が綻びそうになって、自分が何を望んでいたのかに気がついた。

でもそれじゃ――。