甘い恋飯は残業後に
「さ、戻るか」
わたしは、人が喜ぶ姿を見るのが嬉しいだけ。ただそれだけ、だ。
難波さんが立ち上がる。わたしもそれに続いた。
「帰りは俺が運転するから」
「あ……すみません」
彼の後ろ姿を見ていたら、さっき美杉さんと一緒に、倉庫に消えたことを思い出した。
何故だろう――胸の奥が、痛む。
「桑原は甘いもの好きか?」
難波さんは振り返って、唐突にそんなことを訊いた。
「……ええ」
難波さん程じゃないかもしれませんが、というからかい言葉も浮かんだけど、口には出さなかった。
「じゃ今度、その手の店に連れて行ってくれないか。桑原のおすすめの店でいい。男ひとりではどうも、な……」
言ってから恥ずかしくなったのか、難波さんは口許に拳を当てて、頬も仄かに赤らんでいる。その様子に思わず吹き出してしまった。
「……笑うなよ」
「ごめんなさい。いいですよ。どこがいいか、考えておきますね」
言ってから、美杉さんとは行かないのだろうか、とそんな考えが浮かんだ。
やっぱり、わたしは難波さんに振り回されている。