甘い恋飯は残業後に
「えっ、万椰さんがいた部署って、いつもあんな高級なお店使ってたんですか?!」
「俺も店の名前は聞いたことがあったけど、行ったことはなかったなぁ」
以前の部署は三人バラバラだ。
わたしがいた部署だけが、特別にあの店を使っていた、ということだろうか。
「わたしも一回しか行ったことはないんですけど、うちの部署はよく使ってましたよ」
「ああそっか。万椰さんのいた部署は成績良かったからですよ、きっと」
水上ちゃんに言われて、その成績をたたき出していた人の顔がはっきりと頭に浮かんだ――。
営業で常に成績トップを走っていた彼――青柳 拓実(あおやぎ たくみ)とわたしが付き合うことになったのは、『綾村』に行った帰りのことだった。
相手先の要望で、めずらしくわたしも飲み会に同席することになったあの夜、家まで送っていくと言ってくれた彼に、タクシープールまでの道すがら告白された。
最初は酔っぱらった上での冗談だと思った。彼はだいぶお酒を飲まされていたから。
しかも、彼に思いを寄せる女性だってたくさんいた。なのに何故、わたしなのか。
理由もわからずただ困惑していると、彼は『好きになるのに理由がいるの?』と、まるでドラマのセリフのようなことを言った。