甘い恋飯は残業後に


たしかに人を好きになる理由なんて、自分と相手を納得させる為に後づけされるものでしかないのかもしれない。実際、わたしも人を好きになる時は“何となく”から始まるのだし。

……なんて、そんなふうに飲み込めたのはもっと後の話だけど。


そして最後に彼は一言、『俺は、君を一生愛しぬける自信がある』と言った。

言葉だけなら何とでもいえる。
何度か似たような言葉を言われたことだってある。

実際、兄貴も口先巧みに女性を口説き落としていたから、それぐらいのことで揺らいだりはしない。


こんな臆病で頑ななわたしが、何故彼と付き合うことにしたのかといえば――決め手は、目だった。

わたしを見る、真っ直ぐな目。

揺るぎないその目を、信じてみてもいいかもしれないと思ったのだ。


それから彼は、わたしの心が追いつくまで待っていてくれた。わたしは処女で、兄の言葉に縛られ、怖さが先に立ってその行為になかなか踏み切れないということを正直に話した時も、彼は受け止めてくれた。

本当に誠実な人だった。

だから、彼となら……と一線を越える決意をしたのに――踏み切れず、わたしは最低にも途中で引き返してしまった。

わかっていなかったのだ。失う怖さは、彼とのかかわりが深くなる程に増していくのだということを。


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