甘い恋飯は残業後に
○伸ばした手
* * *
「ふぁ……」
会社近くの交差点。
大きく開いた口に、わたしは慌てて手を当てた。恐る恐る周りを窺うと、知った顔はいなかったようでほっとする。
家を出てからもう何度めの欠伸だろう。頭は靄がかかったようにぼんやりしている。
「ふぁ……」
まただ。わたしは仕方なく会社を通り越した先のコンビニに入り、眠気覚ましのドリンクを買って一気に飲み干した。
ゆうべはほとんど眠れなかった。あんなことがあって、平気で眠れる筈がない。
難波さんはひとしきりキスをした後、何事もなかったように「また明日」と一言だけ言って帰っていった。
彼はどういう気持ちでわたしにキスをしたのか。
しばらく経って冷静に考えたら、単なる慰めのつもりだったのかもと思えてきた。
理由は、三つ。
家にあったメイク落とし。シングルじゃないベッド。そして……美杉さん。
ふわふわと、余韻に浸っているだけではいられない要素が多すぎる。