甘い恋飯は残業後に
「……おはよう、ございます」
エレベーターを降りると、給湯室に行こうとしていたのか、水上ちゃんがオフィスから出てきたところだった。気まずそうにしている彼女に「おはよう」と笑顔で挨拶を返す。
わたしはゆうべ、水上ちゃんにメールするのをすっかり忘れてしまっていた。
……忘れた、というよりは、それどころではなかったというのが正直なところだけど。
彼女はわたしのそんな事情を知る由もないのだから、わたしが怒っていると思っているのかもしれない。水上ちゃんは恐る恐るといった感じでこちらを窺っている。
「今日、朝いちで来客の予定あったよね」
「はい……クロスキッチンの社長がいらっしゃる予定です」
確か、クロスキッチンの社長はお供の部下を数人従えて来る筈。わたしも手伝うよ、と言おうとすると、それより一瞬先に水上ちゃんが口を開いた。
「万椰さん、手伝ってもらってもいいですか……?」
「もちろん。荷物置いてくるから、先に給湯室行ってて」
水上ちゃんが何か話そうとしていることは、雰囲気で伝わってきた。
わたしは自分のロッカーにバッグを放り込み、些か緊張しつつも急いで給湯室に向かう。
「ごめん、お待たせ」
わたしが給湯室に入った時にはもう既に、お茶の準備が終わっていた。あとは人数分の湯呑を用意して、お湯が沸くのを待つだけだった。
水上ちゃんは「そろそろお茶頼まないとまずいかも」と独り言のように呟いている。