甘い恋飯は残業後に


「精一杯、大事にする。面倒くさかろうが何だろうが、俺は桑原がいいんだ」

初めて聞く彼の思いに、嬉しさでくずおれそうになった。それを察したのか、難波さんはわたしを優しく抱きしめた。


「だから、俺を受け入れろよ……」

少しだけ、不安が言葉に滲んでいたのは気のせいだろうか。顔が見えないから、難波さんが今どういう表情で言ったのかはわからない。

でも、そんなことはどうでもいい。

わたしは難波さんの背中に腕を回した。


「……はい」

涙で声が震える。

「横暴で自分勝手で、いろいろ大変だけど」

「……悪かったな」

「それでも……好きだから」

難波さんは体を離して、わたしを見つめた。


「万椰」

初めて、名前を呼ばれた。その余韻に浸る間もなく、難波さんはわたしの唇に自分のそれを重ねる。触れただけのキス。

「好きだ……もうどうしようもないぐらいに」

再び唇が重なると、今まで味わったことのない幸福感がわたしを包み込んだ。


不安がない訳じゃない。それでも、愛しいと思った相手が自分と同じ気持ちでいてくれる。大事にしてくれようとしている。

こんなに幸せなことはないんじゃないだろうか。


『誰かが自分を好きになってくれるって、それだけでも凄いことだと思うんです。そして更にその人が自分の好きな人だったら、もうそれは奇跡ですよ』

水上ちゃんの言葉が、頭に浮かんだ。


――本当に、そうだね。

わたしはその『奇跡』を噛みしめながら、難波さんの優しいキスに身を委ねた。



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