甘い恋飯は残業後に
しかし……彼があんなに甘い顔を見せる人だったとは。
散々辛いスープを飲まされた後に、極甘のマンゴープリンを口に入れられたような気分だ。
「万椰さーん」
「は……っ?!」
「もう、何びっくりしてるんですか」
水上ちゃんは笑いながら、わたしの肩をぺしんと叩く。オフィス内がやけに騒がしいなと時計を見れば、針は既に十二時を回っていた。
「ごめん、ちょっと考え事をしていたもんだから……」
わたしは赤くなった顔を見られないようにと、俯いてデスクの一番下の深い引き出しを引っ張る。中から貴重品を入れている小さなバッグを取り出し、義務的に携帯を確認すると――まさかの文字が表示されていた。
「すいません。さっき『お昼一緒にどう』って元の部署の子から誘われちゃって……」
わたしと目が合うと、水上ちゃんは申し訳なさそうにそう言った。
「ああ、丁度良かった。わたしも用事が入っちゃってたから」
「なら良かったー。今日は大貫課長もいないから、万椰さんひとりにしちゃうかなって実は気が引けてたんですよ」
ひとりでランチに行くのは全然苦じゃないし、その気になればお昼を誘える相手位、何人かいる。彼女なりに気遣ってくれたのだろうけど、随分と見くびられたものだ。