甘い恋飯は残業後に
「水上ちゃんに心配されなきゃいけない程、寂しい人生は送ってないですよー」
わたしは笑いながらそう言って、彼女のほっぺをつついてやる。女の子らしくぷるんとしてやわらかい。自分の肌のハリは大丈夫だろうかと、少し心配になってしまった。
「つつきましたねー、こっちも、反撃だっ!」
「おっと、退散っ」
「ああっ、万椰さんずるい!」
そんな水上ちゃんと高校生のじゃれ合いのような会話をかわしてから、わたしは急いで会社の外に出た。
エレベーターに乗りながら、メッセージは確認した。
《昼、外に出られるか?》
すぐに返そうかとも思ったけど、文字を打つのもまどろこしくて、わたしは会社を出てすぐ発信のボタンを押した。
胸はトクトクと、緩やかに高鳴っていく。
『もしもし』
難波さんは三コール目で出た。あの日から電話も遠慮していて出来なかったから、機械を通した声でも彼の声を聴けたことが嬉しい。
「今どこですか?」
『ガード下。来れそうか?』
「すぐに行きます」
気が急いているからか、普通に歩こうとしても早足になってしまう。
わたしは歩きながら「すぐに行きます」と言ってしまったことを後悔していた。会いたかったことがあまりにバレバレで恥ずかしい。難波さんに、どんな顔をして会えばいいんだろう。
「……お疲れさまです」
難波さんはガード下の壁にもたれて時計を気にしていた。あまりゆっくりは出来ないのかもしれない。
彼はわたしを見るなり、にやりと笑みを浮かべた。