甘い恋飯は残業後に
「何か勘違いしてるだろ」
「だってわたしとはもう……キス、したくないってことでしょう?」
「全然、違う」
難波さんはそう言って、わたしの手をぎゅっと握る。
何かを躊躇う素振りを見せてから、彼は決心したように小さく息を吐き出した。
「あれ以上していたら、歯止めがきかなくなりそうだったんだ」
「……えっ」
「驚くことはないだろ。好きな女性が傍にいて、ましてやあんなことをしていれば、その先の欲求が出てくるのは男なら当然のことだ」
ストレートな言葉で説明されたものだから、こっちのほうが恥ずかしくなってくる。
きっと、はっきり言わなければわたしには伝わらないと思ったのだろう。
二十七にもなって察することも出来ず、説明されなければわからないなんて、本当に情けない。難波さんにも申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「でも俺は、これ以上万椰を不安にさせたくはないからな」
「行くか」と難波さんはウインカーを上げた。
わたしはその場で「先に進んでも大丈夫」とは言えなかった。
まだ美杉さんのことが引っかかっているんだろうか、それとも過去のトラウマのせい?
あと一歩が、なかなか踏み出せない。
週末は、難波さんに合わせる顔がなくて、連絡出来なかった。
――難波さんからも、一度も連絡が来ることはなかった。