甘い恋飯は残業後に
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週明け。
会社側と、詳しい事情を知る人間から聞かされた情報漏洩事件の全容は、思っていたよりも深刻なものだった。
難波さんが匂わせていたとおり、この件に関わっていたのは三浦係長だけでなく、もうひとりいた。その人物は何と『Caro一号店』の料理長である加藤シェフ。『Caro』立ち上げの時に有名なイタリアンレストランから、カンパニー長と難波さんが口説き落としてようやく引き抜いてきた人だ。
彼はわたしや水上ちゃんが目撃したあの『美食ログ』に中傷を書き込んだ“正義の鉄槌”だったというから驚いてしまう。
事の発端は、三浦係長の母親が経営しているレストランが『Caro』と目と鼻の先だったことだ。広告費もふんだんに使え、マスコミとも太いパイプのあるモリヤが母体の『Caro』とは違い、一個人のお店では掛けられる費用に限界がある。
半年程は常連客のおかげで乗り切れてはいたものの、『Caro』の知名度が上がるにつれて徐々に陰りが見え始め、ついにはピーク時の売り上げの半分まで落ち込んでしまった。
幼い頃に両親が離婚して、三浦係長のことはずっと母親がひとりで育ててきたらしく、『Caro』のせいで母親の店の売り上げが落ちたことがどうしても許せなかったようだ。
元外食事業部の社員から聞いた話によると、三浦係長は『Caro一号店』の出店先をあの場所にすることには、何だかんだ理由をつけて最後まで反対していたらしい。