甘い恋飯は残業後に
金曜日に会った時、『週明けには会社に顔を出す』と確かに言っていた難波さんが、なぜ来ないのか。わたしは朝から胸のざわつきを覚えていた。
「やっぱり難波さんにも何らかの処分が下るんですかね」
――悪気はないんだから、落ち着け。
わたしは、心配そうな声色ではあったものの、どこか他人事のように言う水上ちゃんに少し苛立ってしまった。
「管理の甘さを理由に挙げられては、処分は免れないだろうね」
大貫課長はそう言って小さくため息を零す。
「もしかして、会社に来ないっていうことは、もうそういうことだったり――」
「まだわからないことを、あれこれここで推測するのはやめよう」
思わず、自分の不安を水上ちゃんにぶつけてしまった。ハッとして彼女を見れば、少しだけ驚いた顔をしている。
「ごめんなさい、無神経に……万椰さんも心配ですよね、難波さんのこと」
気遣われてしまうとは……居た堪れない。
わたしは彼女から視線を外し、ランチプレートに視線を落とした。
「……難波さんと一緒に店を回るようになって、難波さんがどれだけ『Caro』に心血を注いできたのかがわかったから……ちょっと冷静でいられなくてごめん」
半分はごまかしだけど、半分は本音だ。
水上ちゃんは無言で首を横に振った。
「桑原さんのいうとおり、ここで推測しても仕方がない。じき、会社からの発表があるだろうから、それを待つしかないよ」
「……そうですね」
大貫課長の言葉に、水上ちゃんはそう言って項垂れた。
それから三人とも無言で食事をした。わたしは、プレートの上のタンドリーチキンをただ義務的に口に運ぶ。
社食のタンドリーチキンは美味しいと評判のメニューだけど、全く味わう気力が湧かなかった。