甘い恋飯は残業後に
店の扉を開けると、いつもの乾いた木の音がした。
少し、ほっとする。
「万椰さん!」
店に入った瞬間、美桜ちゃんが駆け寄ってきた。
「心配しましたよ、全然来ないから!」
「ごめんね……ちょっと忙しくて」
美桜ちゃんが「万椰さん来ましたよ」とキッチンに向けて声を掛けたものだから、叔父さんまでこちらに飛んできた。
「万椰」
「ごめん、叔父さん。心配かけちゃって」
昨日、仕事中に叔父さんから生存確認のメールが届いていた。わたしは仕事が終わってからすぐ店に電話をして、心配させてしまったことをとにかく詫びた。
「姿を見て安心したからもう謝らなくていい。で、今日はゆっくり出来るのか?」
「うん……」
わたしが今週ここに来なかったのは、食欲のない状態で叔父さんの料理を食べたくなかったからだ。叔父さんの料理は、いつでも美味しく食べたい。
わたしはローストビーフのカルパッチョと、チーズを頼む。これなら何とか食べられそうだ。
「いつものはいいのか?」
「ごめん……あれだけは、食欲がない時にいい加減に食べたくないの」
「食欲ないって、大丈夫なのか?」
「ちょっと疲れてるだけだから、大丈夫」