甘い恋飯は残業後に


ラーボ・デ・バッカは、店の中心に一階の面積の約半分程の二階席があり、上から一階を見渡せるような作りになっている。

わたしをわざわざ二階席に移動させるということは、きっと重要な話があるからなんだろう。

どういう話であれ、ちゃんと受け止めなくては。

そう心に言い聞かせてはみるものの、やっぱり不安は拭い去れない。


わたしは、難波さんの後に続いて階段を上った。二階に到着すると彼は、何の迷いもなく左端の奥の席に腰かけた。

「やっぱり落ち着くな、ここは」

難波さんが椅子の背に凭れながら、ほっとしたように息を吐き出す。わたしが小首を傾げたからか、彼は意味ありげに笑みを浮かべた。

「大学時代から、この席が俺の定位置だったんだよ」

「へえ、そうだったんですか」

どうりで見掛けなかった筈だ、と納得したところまでは良かった。

難波さんと一緒に一階を見下ろしてから――わたしはとんでもないことに気がついた。


「えっ、あの、もしかして……」

「ああ、いつもここから見てた」

ぎゃあ、と叫びそうになって、慌てて呑み込む。

ちょうど見下ろした先にあったのは、カウンター席。しかも、わたしがさっきまで座っていた場所が一番見えやすいときた。


< 275 / 305 >

この作品をシェア

pagetop