甘い恋飯は残業後に
「千里の妹だっていうのは最初から知ってたから、気になって観察してた」
「もうっ、観察なんかしないで下さいよ……!」
酔って管を巻いていたところも、叔父さんに子供じみたことを言って窘められたところも、本当に見られていたのかと思うと、今更とはいえ物凄く恥ずかしくなる。
それに――“気になって”って何。千里の妹だから……?
難波さんはこちらの気も知らず、声を上げて笑っている。
「……まあ、それはさておき」
ひとしきり笑ったところで、彼は真面目な顔でこちらに向き直った。
「随分と心配を掛けているようだから、万椰には先に話しておくけど」
思わず、身構える。
「加藤シェフの後任、何とか決まりそうだから」
「……えっ」
考えていたこととまるっきり違う話を聞かされて、一瞬頭が真っ白になった。
加藤シェフの後任……と数回頭の中で復唱して、ようやく理解する。
「実はこの一週間、久瀬カンパニー長と以前から『Caro』に迎えたいと思っていた人物を口説き落としに行っていたんだ。まさか、加藤シェフの後任でという話になるとは思っていなかったけど」
「……そうだったんですか」
難波さんは普段と違って何だか饒舌だ。これから『Caro』をどうやって盛り立てていくかとか、とにかく自分の考えをひたすら話している。
そんな彼の様子を見て、また不安が胸に広がり始めた。