甘い恋飯は残業後に


「……難波さん」

「ん、何だ?」

「あの……」

まさか、いなくならないですよね。

確認したいのに、言葉が喉の奥で詰まった。妙な間が空く。

「……ああ、美杉のことか?」

違います、とは言えなかった。だって、これも気になっていたことだ。

わたしは曖昧に頷いてみせる。


「これは絶対に口外しないでほしいんだけど……実は、彼女は調査会社から派遣された人間だったんだ」

「……調査会社?」

「探偵事務所と言えばわかりやすいか」

ここでまさか“探偵事務所”などという言葉が出てくるとは思わなかった。返事に困っていると、難波さんは「まあ驚くよな」と言って、苦笑いする。


「今回の件に絡んでいる人物が何人いるかも最初はわからなかったし、あからさまに調査すれば証拠を消される可能性があった。だから秘密裏に事を運ぶ為には社外の人間に協力してもらうのがいいだろうと、上と相談してそういう結論になったんだ」

そんな話はドラマの世界だけかと思っていた。実際に、そういう仕事があったなんて。

「それで、美杉さんと……」

「因みに潜入調査をしてくれていたのは、美杉だけじゃない。それに彼女の“美杉”という名前も偽名だ。俺は彼女の本名すら知らないんだから、何も心配しなくていい」

難波さんは、そう言って笑う。


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