甘い恋飯は残業後に
「もう、恥ずかしい」
「何も恥ずかしいことはないだろ。それとも何か? 俺と付き合ってること自体が恥ずかしいとでも言うのか?」
難波さんはわざとらしくふて腐れたような素振りで、先を歩いていく。
「そうじゃ……ないですけど」
どんどんと先に行ってしまう彼を見ていたら――さっき聞けなかったことが、口を衝いて出てきた。
「処分の件は……どうなったんですか」
ぴたりと、前の影が止まった。一拍置いてから、振り返る。
「『訓告処分』で、ほぼ決まりになると思う」
訓告というのは、上司から口頭で厳重注意を受けるというものだ。同じ口頭注意の戒告よりも緩く、しかも懲戒処分には当たらない。
「まあそれも、このままでは示しがつかないから、形式上そうせざるを得ないって感じらしい」
「じゃあ、どこにも行かないんですね」
「ああ」
難波さんはこちらへ戻ってくると、穏やかな笑みを浮かべて、わたしの頭を撫でた。
「行かないよ」
――心の奥底から、何かがせり上がってくる。
この一週間張りつめていたものも、今までこだわっていたことも、そのせり上がる何かの勢いで、壊れた。
「……難波さん」
「ん?」
「今夜はずっと、一緒にいてもらえませんか」