甘い恋飯は残業後に
○変わり者
* * *
「はぁー……」
ロッカーの前で、わたしは深いため息を吐いた。
手渡された白シャツと黒のベストとパンツ、赤のロングエプロンを身に着け、鏡の前に立つ。
「何でわたしがこんなことまで……」
誰もいないのをいいことに、恨み言を呟いてみる。
口に出せば少しは気持ちがおさまるかと思ったけど、逆効果だった。モヤモヤとお腹の底の方から黒いものが湧き上がってくる。
今週は店舗巡回を勘弁してもらえる約束の筈が、何故かわたしは今『Caro』にいた。
それというのも『Caro一号店』のスタッフ内で風邪が流行り、人手が足りない為だった。このところの寒暖差で体調を崩したスタッフから、一気に蔓延してしまったらしい。
――でも。
「……納得いかない」
これは絶対にわたしの仕事ではない。こういう時には、店舗営業部二課が対応することになっているのだ。
鏡の中のわたしの顔は、あからさまに怒りが滲んでいる。それを引きつりながらも何とかいつもの表情に戻してから、ロッカー室を後にした。