甘い恋飯は残業後に
コンビニの前まで行くと、難波さんは外で電話をしていた。
こちらに気づいた彼は目を眇めて、すまないとでもいうように顔の前に片手を立てる。
「毎回それで、どうするんだ」
車が途切れた時、かすかに携帯から漏れ聞こえた声は女性のもののように思えた。
一体、誰と話をしているんだろう。
「わかったわかった。俺は別の場所に泊まるが、勝手に入って使え」
相手の言ったことが気に入らなかったのか、難波さんはめずらしく面倒くさそうな顔をしている。
「うるさいな。ああ……いつか紹介するから。あんまり散らかすなよ」
電話を切ると、難波さんは大きくため息を吐き出した。
「思ったより早かったな」
「今の電話って……」
一瞬、躊躇ったが、この状況で触れないのは逆に不自然だ。
「妹だよ」
「難波さん、妹さんがいるんですか?」
「言ってなかったか? うちもふたり兄妹だ」
難波さんに兄弟がいるということは、以前、姪っ子の話が出た時にわかってはいたけど、妹さんだったのか。確かに、何だかんだ言いながらも面倒見が良さそうなところは、うちの兄貴と通じるものがある。
「妹は旦那と喧嘩するたびに、親には心配かけられないからとうちに逃げてくるんだ。全く、困ったもんだよ」
その話を聞いて思い出す。
「もしかして、あのメイク落とし……」
「ああ、妹のだ」
言ってから、難波さんは意味ありげに口許を緩めた。