甘い恋飯は残業後に
●高嶺の花
* * *
地下鉄を降りて、いつもの通りを歩く。
会社が近づくにつれ、然程暑くもないのに、額に汗がじわりと滲んできた。
きっと昨日、叔父さんの店でワインを飲みすぎたせいだ。帰り際にちょっとため息をつきたくなるようなことがあったから、つい、いつもよりもお酒が進んでしまった。
二十七歳の、うら若き女性――と言ってもいい歳かどうかは別として――が、朝から汗臭いなんてどうなんだろう。一応、周りに不快に思われない程度に軽く香水をつけてはいるけど、このままだと汗臭い方が勝ってしまうかも。
その上、お酒臭かったら最悪だ。朝にアルコールチェッカーでチェックしたから、そこは多分大丈夫だとは思うけど……。
こんな生活が母親にバレたら「美人が台無しだ!」と、凄い剣幕で言われるに違いない。
わたしはバッグからタブレットを取り出し、三粒口に放り込んだ。