甘い恋飯は残業後に
●Epilogue
* * *
「でねー、聞いて下さいよ! 私の元部署の男ども、万椰さんが脇を通った後に『やっぱ彼女、いい女だよなぁ。でも俺らには高嶺の花だけど』って、ぽーっとしちゃってるんですよ。そもそもあんたらのことなんて、万椰さんは歯牙にもかけないっつーの!」
わたしは今、以前と同じハワイアンダイニングのお店に来ている。
『Caro一号店』の新メニューもようやく決まり、一か月激務をこなしたわたしの労をねぎらおうと、水上ちゃんが飲みに誘ってくれたのだ。当然、大貫課長も一緒。
「女性の前で他の女性を褒めるなんて、随分と無神経な奴らだね」
大貫課長のフォローはそつがない。こんな、女性の機微をよくわかっている人が、どうして結婚していないのだろうと、つい心の中で余計なことを詮索してしまう。
「さすが大貫課長、わかってらっしゃる! 本当失礼な奴らですよねっ!」
いつものごとくハイペースで飲んだ水上ちゃんは、管を巻き始めている。
そろそろ、さりげなくジュースと差し替えておくか。
「でも高嶺の花って何なんだろうね。もしかしたら、高嶺の花も間近で見たらその辺に生えてる雑草かもしれないのに」
わたしも酔いに任せて、普段は言わないことを口にした。
「いや、雑草はないよ。一説によるとシャクナゲじゃないかって話もあるようだし」
「シャクナゲぇ? シャクナゲってどういう花でしたっけ?」
わたしは水上ちゃんの言葉に、思わず吹き出してしまった。
もしかしたら、そんな程度なのかもしれない。
手が届きにくいと勝手に思い込んでいる高嶺の花は名前も知らないどころか、そもそも幻なのかも、と。
水上ちゃんは「何で笑うんですかぁ」と眉根を寄せている。
「ごめんごめん。でも、高嶺の花も遠くで眺められたって、あんまり嬉しくないだろうね。だって孤独には変わりないんだもの」
「……もしかして、万椰さんも孤独なんですか? うわーん、一緒に頑張りましょうねぇ!」
そう言えば、この間の合コンも不発だったと彼女は落ち込んでいた。水上ちゃんのこの荒れようはそれが原因か。わたしは抱きついてきた水上ちゃんの頭を「よしよし」と撫でてやった。