甘い恋飯は残業後に
「あ、そうだ。これ」
わたしは保冷バッグを掲げてみせる。
「水上ちゃんに付き合ってもらって買ってきたんです、『Queue』のショコラムース。なかなかお店に行けないから、一緒に食べようと思って」
難波さんは「それも魅力的だけど」と言ってから、わたしの耳許に唇を寄せた。
「……もっと魅力的なデザートが目の前にあるからな」
「えっ」
意味が分からず、彼の顔を窺う。難波さんはニヤリと口許に綺麗な弧を描いた。
「千里の告白のおかげで、余計なことを考えずに済むようになったし」
“千里の告白”という言葉で、デザートが何を意味しているのかようやく理解した。
――理解して、顔が熱を帯びる。
「……食べ散らかして、飽きたりしないで下さいよ」
「その辺は安心していい」
難波さんは、わたしの頭を自分のほうへと引き寄せる。
「俺は、ひとつのものが気に入ったら、飽きずにずっと食べ続けるタイプだから」
それを聞いて、叔父さんの店のラムチョップが頭に浮かんだ。
――確かに彼は、嘘は言ってない、かも。
わたしはふと、いつか叔父さんが言っていた言葉を思い出した。
『味覚が合う人とは、男女の相性もいいらしいぞ』
そうなんだろうか、と難波さんの横顔を盗み見る。
だとしたら、嬉しい。
「近々、叔父さんの店に行きませんか。モツ煮とラムが凄く恋しくて」
「そうだな」
寄り添いながら、ふたりで夜の街を歩く。
見つけてくれて、ありがとう。
傍にいてくれて、ありがとう。
わたしは心の中で、もう一度そう呟いた。
~End~