甘い恋飯は残業後に
「……わたしも、難波さんにラム肉のおいしさを教えていただけて良かったです。思いがけず叔父も喜んでくれたようですし。ありがとう、ございます」
とはいえ、感謝はしなくてはいけない。わたしはせめてもの抵抗とばかりに、些か儀礼的にお礼を言った。
「しかし、あの店に行く度に俺は桑原を見かけているような気がするんだが、週何日通ってるんだ?」
「……予定がなければ……平日は、ほとんど毎日」
難波さんは驚いたような、呆れたような顔をしている。
それもそうだろう。いい歳の女性が、毎日外食だなんて。
「なるほどな」
「……は?」
「外食産業に携わっている身としては常にそういう場所に顔を出して、アンテナを張り巡らせておこうってことか。仕事熱心だな」
真面目なトーンでそう言われ、わたしは居たたまれず俯く。しばらくして、漏れ出たような笑い声を隣に聞いた。
――やられた。
本気で感心されたのかと思えば……いや、それはそれで気まずいけど。
難波さんはまだクスクスと笑っている。わたしは面白くなくて、彼を睨み上げた。
「そんなに怒るなよ」
子供を宥めるように背中をポンポンとされて、余計に怒りが湧いてくる。
「バカにしないで下さい!」
わたしは立ち止まって、難波さんの手を振り払うように、体をくるりとかわした。