甘い恋飯は残業後に
「俺はバカになんかしてない」
振り払われて宙をさまよっていた彼の手が、今度はわたしの頭の上に柔らかく乗せられた。
「あまりにしゅんとしてたから、可愛くてつい、からかいたくなった」
――何を言っているんだろう、この人は。
やっぱり、モツ煮を食べておかしくなってしまったんじゃないだろうか。
難波さんはわたしの頭からすぐに手を下ろすと「行くぞ」と前を向いた。
見れば、いつの間にかコンビニの明かりが間近に見えている。
「……あの、もうここで大丈夫ですから」
わたしは、既に歩き出していた難波さんの背中に声を掛けた。
「そうか」
深追いされるだろうと構えていたから、拍子抜けする。
わたしがコンビニに寄ると思ったんだろうか。
「今日は、ご馳走様でした。それと、ここまで送って下さってありがとうございました」
「ああ」
「では、また明日」
「遅刻するなよ」
去り際、余計なひと言を付け加えた難波さんが歩き出してから、俯き気味でいた体制を元に戻す。
一瞬だけ後ろ姿を視界に入れたが、それを振り切るように、わたしは足早に自宅へと向かった。