甘い恋飯は残業後に


『然程慣れていない者が来るより即戦力になる』

難波さんは昨日、確かにそう言っていた。だからてっきり、研修を受けたぐらいの社員がヘルプに入ろうとしていたんだと思ったのに……どういうこと?


「ところでそれ、なんですか?」

「……え?」

「その、脇にあるボトルですよ。万椰さんがそういうもの持ってるなんて珍しいから」

水上ちゃんはキラキラした目でボトルを見つめている。彼女のことだから、もしかしたら美肌になれるドリンクなんじゃないか、とか考えているのだろう。

「ああ、よかったら飲む? レモンの蜂蜜漬けで作ったドリンクなんだけど」

「飲みます飲みます!」

思った通り、水上ちゃんは「やっぱり美容にはビタミンは欠かせないですよねー」などと感心した様子を見せている。そういうんじゃないよ、と否定したところで、彼女の耳には届かなそうだ。

「うわ! おいしい!」

「よかった」


難波さんもこんな風に言ってくれたらよかったのに。


――って。何、今の。

難波さんの感想なんてどうだっていいのに……。


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