甘い恋飯は残業後に


金曜だった今日、仕事が終わってからわたしは実家に来ていた。
何の予定もない週末は、こうして実家に帰ってきていることの方が多い。

「デートする男性はいないの?」と母親はわたしの顔を見るなりそう言ってため息を吐いたが、本当にいないんだから仕方がない。

……まあ、積極的につくる気もないけど。

ただ、今回に限っては予定がなかったから帰ってきた、という訳ではなかった。


「まーや、入るぞー」

自分の部屋で髪を乾かしていると、扉の向こうから兄貴の声がした。

兄貴がわたしを「まーや」と呼ぶ時は、大概厄介なお願いごとを持ってくる時だ。
入ってきた兄貴を見ると、案の定、気味悪いぐらいに笑みを浮かべている。

兄貴は今年三十路を迎えるけど、この笑顔にまんまと釣られてしまう女性はきっとまだたくさんいるのだろう。


まじまじと見つめていると、兄貴は「何だよ」と怪訝そうな顔で言いながら、ラグの上にトスン、と腰を下ろした。

そういえば、週末に兄貴が家に居るのも珍しい。


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