甘い恋飯は残業後に
「あれ、兄貴は?」
「もう出かけたわよ。車出したみたいだから、デートじゃないの」
翌朝、二階の部屋からリビングに下りると、そこには母親の姿しかなかった。父親は朝早くゴルフに出かけたらしい。
キッチンへ行き、自分の朝食の準備をしながら、冷蔵庫にあったアメリカンチェリーをひと粒つまみ食いする。
「兄貴も今年三十路なんだから、いい加減落ち着けばいいのに」
トレーにいつものパン屋のクロワッサンと、母が用意してくれていたサラダを乗せてテーブルに着く。ふと顔を上げると、母は何とも言えない顔でこちらを見ていた。
「あんたが千里のこと言えた義理じゃないでしょ」
それもそうだ、と納得してしまえるところが悲しい。
「でもそんなこと言って、万椰、あんた本当は千里が落ち着くのが嫌なんじゃないの?」
「……はぁ? 何それ」
意味がわからず、眉間に皺が寄る。母はニヤニヤと、含みのある笑みを浮かべている。