甘い恋飯は残業後に
「だって、万椰はお兄ちゃんっ子でしょ?」
「お兄ちゃんっ子? わたしが?」
両親が共働きで忙しくしていたから、確かに小さい頃はいつも兄貴にくっついて回っていた。でも『お兄ちゃんっ子』という認識はこれっぽっちもない。
「千里が小学校低学年の時だけど、千里のクラスの女の子が家に遊びに来るとあんたは必ず『お兄ちゃんはわたしと結婚するんだから!』って言って、千里に抱きついて離れなかったのよ」
「嘘……」
自分ではすっかり忘れていた話を聞かされ、何とも居た堪れない気持ちになる。
「嘘じゃないわよ。忘れたの?」
「……そんな小さい頃の話なんか、覚えてないよ」
母にこれ以上からかわれたくなくて、何かを取りに行くふりをして冷蔵庫へと向かう。アメリカンチェリーが入っている容器を取り出すと「お父さんがそれ楽しみにしてるから、五粒ぐらいでやめといてね」と素っ気なく言い残して、母は他の部屋に行ってしまった。
――お兄ちゃんっ子、ねえ……。
学生時代、ブラコンの友人がいたけど、自分は絶対にそうじゃないと思っていた。
そういう要素が自分の中に潜在的にあるのだとしたら、わたしが兄貴の言葉に縛られ続けていることも頷けてしまう。
「勘弁してよ……」
わたしがまともに恋愛出来ない理由が、ブラコンだから、なんて。
わたしは容器からアメリカンチェリーを八粒取り出して、また冷蔵庫にそれをしまった。