1粒の勇気


3人で家に向かう。

暗い暗い夜道を

一歩

一歩

ゆっくりと歩いて行く。

もう日が暮れかけているのに道端では少し破けた薄い服を着た男が作業していた。

おそらく奴隷であろう。

僕等は近付いた。

彼はこちらに気が付いて少し俯いた。

暗闇の中ではなんの作業をしていたのかわからなかったが洗濯をしていたようだ。

手が赤くなっている。

彼は僕等を気にしながら作業を続けた。

しばらく沈黙が続く。

その沈黙を破ったのはアリスだった。

「あなたの名前は?」

彼は少し身体を震わせながら言った

「テ、テラ。

テラ・アラゴンです。」

「テラさん。

あなたはなぜこんな時間に作業していらっしゃるのですか?

もう夜になられますよ。
梅雨に入ったので雨も降るでしょう。早く家の中へ入られたほうが良いのでは?」

カノンは心配そうに言う。

テラは少し寂しそうな笑みを零しながら言う

「僕は奴隷です。

それも50万リロで買われた…。

主人がお金のある人じゃなくて…。

ただの見栄で買われました。」

俯いている。

人の命の取引

人の命が50万リロで取引される。

『リロ』とはこの国周辺での通貨単位のこと。1リロ=1円の価値がある。

この世の中は歪んでいる。

50万なんておかしいだろ?

僕は思った。

一人ずつでもいい。

この歪んだ世界を一瞬にして変えることは今の僕には無理だ。

なら。一人ずつ奴隷解放をすればいい。

そう考えているとテラのすぐ側にある家のドアが開いた。
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