ツンデレくんを求めてみます。
「中出」

「なんや」

「じゃあ、代わりに今日一緒にご飯食べてよね」

「奈子さん家に行くってことけ?」

「そう」


決して大きいとは言えない細い目が瞬きした。明るい茶髪は肩の上で切り揃えられている。肌は日焼けしているけど綺麗だ。唇は少し厚い。


中出駿哉(なかいでしゅんや)。目の前の男こそあたし、飯田奈子の彼氏である。


さっきから表情を崩さないこの男はあまり社交的ではない。同じ部活だから知り合ったのであって、あたしは文学部、中出は工学部と全く違う学部のあたし達は、硬式テニス部に入っていなかったら好きになるどころかきっと一生出会うことはなかっただろう。あたしも中出も、小さな輪の中にいるタイプだ。


決してイケメンとは言えないこの男になぜ惚れたのか、それはいまだに当のあたしですら理解ができていない。あたしはどちらかといえば面食いだ。中出とは真逆のタイプが好みなのだ。なのに、好きになった。それはきっと中出も同様だろう(あたしも自他ともに認める、眼鏡をかけた美人とは遠く掛け離れた地味な女だ)。


ちなみにあたし達は付き合う前から「奈子さん」、「中出」と呼び合っていて今もそう呼んでいる。中出はあたしを呼び捨てにするのがなんとなく抵抗があり、あたしも同じ理由で中出を名前で呼べないでいる。


いつかは呼びたいなあなんて思うけど、たぶんまだまだ先の話になるだろう。


「めんどいんやけど」

「じゃあ、牛丼屋にでも行く? 中出の奢りでだけど」

「やだ」

「じゃあ、あたしの家だね」


この男はあたしに奢ったことなど一度もない(時給750円で週3で働いているあたしより絶対稼ぎはいいはずなのに)。


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