薬指の約束は社内秘で
切なげに歪む瞳に目の奥が熱くなる。

溢れ出そうになる熱を無理矢理奥へ引っ込めてから、心配げに見下ろす瞳に笑ってみせた。


「もうっ、謝らないでくださいよ。だって葛城さんが言ったんですよ? 『自分に非がないのに謝るな』って」


きっと普通に返したところで、彼は罪悪感を抱えたまま謝り続けるだろう。

だから、少し彼の真似をして冗談っぽく続けてみる。


「何かあったら体を張って守れって。藤川だったら余裕で出来るって。

本当にその通りでした」


そう。あのとき私は――……

「ドレスが濡れたらどうしよう?」とか。
「周りに迷惑を掛けてしまうかも」だとか。

そんなことを冷静に考えられないくらい、体が勝手に動いていた。


冗談とはいえ素直な気持ちを言葉にすると、今日ずっとささくれていた心が穏やかになっていくのを感じる。
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