薬指の約束は社内秘で
私を見つめる涼しげな瞳に訴えかけたくなる。

でも私から視線を逸らした葛城さんは床に散らばった書類を拾い出し、


「藤川。頼んでおいた仕事は終わったのか?」


綺麗に書類を整えながらの事務的な口調に、止まっていた時間がようやく動き出す。


「いえ、すみません。すぐに取り掛かります。それと、あのっ。帰国は明日だったはずじゃぁ?」 

「あぁ。飛行機のキャンセル待ちが取れたから早まった。出勤は明日の予定だったけど」

「そう……だったんですね」


こうして葛城さんと会話している間も、痛いほどの視線を社長秘書の彼女から感じる。

瑞樹との関係を黙っていてほしいと願う気持ちがあるんだろう。でもきっと、それとは違う別のものも。


この場から離れた方がいい……

そんな想いを葛城さんは感じ取ってくれたのか、それ以上何も言わずに開いたままの扉に足を向ける。
私も彼の後に続こうとすると、やけに弾んだ声が室内に響いた。


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