薬指の約束は社内秘で
「あれ。今日も無視? いま、俺達が何してたとか、気にならない?」

扉の前で立ち止まった葛城さんに歩み寄った瑞樹は、少しだけ背の高い彼を見上げるように顔を傾ける。

挑発的な口調に、思わず口を挟みたくなるけど。

でもいまは、それより――

こんな風に対峙する二人を前にも見たことがあった。たしか、経営統括室の前でも……

秘書室が再び張りつめた緊張感に包み込まれ、少しの間を置いてから葛城さんが口を開いた。


「別に。どうでもいい」


静かな瞳で返された言葉に瑞樹の頬がピクリと引き攣る。
でもそれは、すぐに余裕げなものに変わっていって、


「嘘がずいぶん下手になったね。感情を隠すのが得意だったくせに」

冷ややかな笑みを浮かべた瑞樹に、葛城さんの瞳に一瞬鋭さが増したように見えた。
でも彼はそれ以上何も言わずに、開いたままの扉から秘書室を出て行ってしまった。
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