薬指の約束は社内秘で
これまでの二人を見ていると、仲のいい従兄弟同士ってわけではなさそうだよね。
関係ない私が立ち入っていい話でもない気がする。

静かな沈黙が流れる車内でぼんやり考えていると、前方の信号機が赤から青に変わる。

微かな振動を響かせて走り出した車内に、「俺の食いたいもの、だな」
そんな呟きがポツリと漏れて、フロントガラス越しの涼しげな瞳が意味深に細まった。



海外出張帰りの葛城さんが食べたい料理は、数ヵ月前に建設されたばかりの高層マンションの最上階にあった。


「ごちそうさま。おいしかった」

箸を置きながらの満足そうな声に、「お粗末様です」と小さく答える。


オフホワイト基調のダイニングルームは、家具がダークブラウンで統一され、窓際には背の高い観葉植物と北欧系の小洒落た絵がいくつか壁に掛けられていた。

新築の匂いが微かに残るこの部屋は葛城さんが所有するマンションで、彼は私が作ったサバの味噌煮を食べ終えたばかり。

実家が小汚い小料理屋の私と、(ごめん、お父さん!)世界に名の馳せる瀬戸モーターの親類である葛城さん。

「手料理が食べたい」と言われて、どんな物を作っていいか戸惑ったけど、「サバの味噌煮」と。
珍しくハードルが低いことを言ってくれたから助かった。
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