薬指の約束は社内秘で
そうか。葛城さんと職場で顔を合わせられるのもあと少しだなぁ。

なんて、少し残念に思いながら梅雨特有の高い湿度に押し潰された前髪を整えると、

「藤川さん。首のところが赤くなってるわよ?」

隣からの声にドキッと心臓が跳ね上がる。
襟のついたシャツに隠れて自分では気づかなかったけれど、確かに右斜めを向くと首筋に薄らと不自然な痕が目に入った。

これ多分、いや、間違いなく葛城さんだよね。

ショッピングモールでの悲劇『一緒に朝まで過ごしましょう』オープン宣言の翌週末も一緒に過ごして、残業で帰りが遅くなった昨日も、葛城さんのマンションに泊めてもらった。

葛城さんと親しい仙道さんに、彼とのことを話していいものかなぁ。
いや、話すにしても、このタイミングではさすがに恥ずかしいし。

「あっ、これは、ちょっと。昨日、蚊に刺されて」

背中に変な汗を伝わせながら、たどたどしく返したら、「蚊? もう出てるのね」と、不思議そうに首を傾げられる。

「いやっ! ダニかも……です」

「クスッ。そんなとこに狙いをつけるなんて、意地悪なダニさんね!」

含みのある黒い笑みを浮かべる仙道さん。

絶対に、ダニの正体は明かすわけにはいかない!


< 242 / 432 >

この作品をシェア

pagetop