薬指の約束は社内秘で
「でも羨ましいなぁ。私なんて親が持ってきたお見合いで婚約したじゃない? だからそういうドラマみたいな恋に憧れちゃうのよねぇ。あっ、すみません!」

愛美は会話を切るようにすぐそばを通りかかった店員に声をかける。
まだ半分も食べ終えていないランチプレートを下げさせた。

「愛美、食欲ないの?」

「えっ? 違う違う。ちょっと朝ご飯食べたのが遅かっただけだよ」

「そっか、ごめんね。私の予定に合わせちゃったから」

「あぁ、もう! 愛はすぐそうやって気にするんだから。気遣い屋さんは疲れちゃうよ?」


愛美はおどけるようにそう言うとテーブルから身を乗り出して、向かい合って座る私の額を指で弾いた。

勢いを殺して弾かれた額は痛みもなかったけれど、自分のことよりまず相手を気遣う彼女の優しさに、昔彼女につけてしまった古傷を思い出す。

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