薬指の約束は社内秘で
「私っ、帰るね!」

そう言って突然走り出した愛美に、「えっ、愛美!?」と思わず声が大きくなる。


それは近くを歩いていた人を振り返らせるほどのものだったのに。
愛美の足は止まらず、その背中はどんどん小さくなっていく。

その間も葛城さんは愛美に鋭い視線を送っていて――……

それは以前、私のプレゼンを邪魔しようとした田村君に向けられたものよりも、ずっと鋭く凍てついていた。

「あのっ。さっきの彼女、私の親友なんですけど。もしかして、葛城さんもお知り合いでしたか?」

角を曲がった愛美の後ろ姿が視界から消えた後も、変わらない厳しい表情でいる葛城さんにおずおずと聞いてみると、彼がこちらをゆっくり振り返る。

見つめ合う一瞬。

強い横風が葛城さんの黒髪を揺らし、風に乗った静かな声が聞こえた。
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