薬指の約束は社内秘で


愛美とランチをしたあの日から数日が過ぎた。

葛城さんと愛美の間に流れていた不穏な空気の意味を聞こうと、愛美に何度か電話をしてみたけれど、彼女からの連絡はなかった。


仙道さんはまたドイツに戻っちゃったし。
葛城さんにはとても聞ける雰囲気じゃないしなぁ……

悶々とする気持ちを抱えて過ごしていたら、社内メールで美希ちゃんが足を怪我して入院したと知り、週末の土曜に手土産持参で病室を訪れると、

「えぇ!? じゃぁ、合コン帰りに酔っぱらって転んだってこと?」

「ちょっ、藤川先輩! 声が大きいですって!!」

社内メールの内容と違う盛大な嘘に、ここが6人部屋の病室であることを忘れて思わず声が大きくなった。
どうしたのかと、集まる視線に順に頭を下げてから、声をひそめる。


「だって、課長が言ってたよ。美希ちゃんは、いきなり飛び出してきた猫を避けるのに、自転車で転んで手の甲にヒビが入ったって」

「だってぇ、恥ずかしいじゃないですかぁー。期待してた合コンが不発で、ヤケ飲み帰りに、ふらついて転んだなんて。2課の青山君が聞いたらなんて思うか」

「そう思うなら、合コンなんて行かないで、青山君1本に絞ればいいのに……」


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