薬指の約束は社内秘で
私の言葉に葛城さんは僅かに瞳を細める。同情とも思えるそれに癒えたはずの傷が疼いた。

あぁ、そうか。葛城さんも瑞樹のお見合い話を聞いてたもんね。
気まずい沈黙を破るように、揺れる瞳に笑ってみせた。

「もう会えないと思った初恋の人に再会できるなんて、運命って思ったんですけどねぇ」

「まだそんなこと言ってんのかよ」

「いけませんか? だってロマンチックじゃないですか」

「呆れるくらい夢見がちだな」

「葛城さんは、運命とか――」

「そんなの都合のいい言葉だろ」

間髪を容れず吐き捨てられ、胸がキリキリと軋み出す。
でも気まずい空気を一掃できたところで、謝罪の他にお礼を言うタイミングを逃していたことを思い出した。

「あのっ、今更ですけど。体を張って守ってくれて、ありがとうございました」

葛城さんと昨日の彼が具体的にどんなやり取りをしたのは、聞いてみないと分からない。
とりあえず戦隊ヒーロー的な扱いで持ち上げてみる。

「体なんて張るか」

やっぱりというか。きっぱりはっきり返された。
至近距離で見る葛城さんは意外と肩幅があったけれど、昨日の彼に肉弾戦で勝てるとは思えなかったから。

「じゃぁ。うまく交渉してくれたんですね」

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