薬指の約束は社内秘で
長い時間をかけて抱き合ったあの日は、

『愛』

初めて呼ばれる自分の名前さえも愛おしく思えて、幸せ過ぎて怖かったことを。
夢じゃないかと思って、朝が来るのさえ怖かったことを、きっと彼は知らない。


葛城さん……
言えなかったことが、言いたかったことが、たくさんあるんです。

クールに見えて、でも本当は優しくて。
隣にいるのが悔しくなるほど綺麗な顔をしていて、でもそれでも隣にいたかった。

でも、これ以上は無理。これ以上一緒にいたら、引き返せなくなる。
二人の幸せを心から願えなくなってしまう。そんな自分を――


「嫌いになっちゃいそうだから……」

言葉にしたら、それまで堪えていた涙が零れ落ちた。

泣きたくなんかなかった。
だって涙は、本当の別れを意味する。

でも、震える心に言い聞かせるように、心がからっぽになるまで涙は止まることはなかった。
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