薬指の約束は社内秘で
時折痛む胸に言い聞かせていたらお盆休みになり、毎年の恒例行事となる実家の静岡に帰って羽を伸ばすこと、3日目。今日は、私の26回目の誕生日だった。



「—-ったく。よくそんなに寝てられるよな。脳みそ腐ってんじゃねぇ?」

寝すぎでこめかみが痛む頭に大地(ダイチ)の大声がキンキン響く。
最近仕事を辞めて県内の調理師学校に通っている大地は、お父さんに似て色黒で口が悪く、声まで大きい。

「私、何時間くらい寝てた?」

「もう昼だから、15時間くらい寝てんじゃね」

「嘘!? そんなに」

昨日は確か8時過ぎには寝てたはず。
ベッドサイドの時計を見ると液晶ランプは11時をさしている。

さすがに寝過ぎだなぁ。本当に脳みそ腐りそう……

ぼさぼさの髪を手ぐしで整えながら、今日はなにしようとぼんやり考える。

すると、クローゼットを断りもなく開けた大地がぶつぶつ何かを言い出したと思ったら、白いコットンワンピースを「ほれっ」とベッドに投げつけてきた。
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