薬指の約束は社内秘で
ざわつき始めた心を落ち着かせるように息をついてから、振り返る。

日焼けの知らない白い肌。長いまつげを乗せた大きな瞳。それを柔らかく細めた瑞樹の姿が目の前にあった。

「ここの人に、何か用?」

そう言って顔を傾ける優しい笑みを懐かしく思う。
ずっとそんな風に話しかけてくれることを願って、その度変わらない現実を突きつけられて、何度も傷ついたのに。

ずいぶん普通に話しかけるんだね……
恨めしく思った気持ちに蓋をして、できるだけ自然な笑顔を浮かべてみせた。


「葛城さんに用があるんです」

しまった。敬語なんか使って不自然だったかな。
変に意識したことを後悔して心で舌打ちをすると、瑞樹から「へぇー」と乾いた声が漏れた。

「珍しい組み合わせ。仕事で関わりあるんだ?」

片えくぼを浮かべて顔を覗き込んできた瑞樹に、「えっ」と思わず口ごもる。

まさかそこまで聞かれるとは思ってなかった。

とりあえず適当な言い訳を考えていると、チンッという軽い響きがエレベーターホールから聞こえてきた。
開かれた扉から姿を見せたのは、葛城さんだった。

彼の瞳が数メートル先の私達を捉え、少し驚いたように揺れ動く。
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