薬指の約束は社内秘で
「これ、あの時返しそびれたハンカチ」

彼が差し出したハンカチを受け取ると、そこには確かにお父さんの字で『ふじかわ あい』と書かれていた。

瑞樹が私の名前を知っていたのは、もしかしたら葛城さんが持っているこのハンカチを見たからなのかもしれない。

そんなことをぼんやり思っていると、ふっと表情を緩めた葛城さんが小さく笑う。


「それにしても、お茶を無理矢理飲ませられた時は、本気で窒息するかと思った」

「ごっ、ごごっごめんなさい!」

「でも、なぜだかあの味が忘れられなかった。それからだ、茶と名のつく物が嫌いだった俺が、唯一日本茶だけを好きになったのは。

昨日も日本橋でやってた『世界のお茶展示会』で試飲してきたけど、やっぱり日本茶以外は飲む気になれないな」

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