薬指の約束は社内秘で
「そうだったんですね」

そういえば葛城さんの家には緑茶とコーヒーしかなかったもんなぁ。

幼い頃の無茶ぶりからそこまで緑茶にはまってくれるなんて、ちょっと悪いことしちゃったけど、なんだか嬉しい。


冷たい山風が隣を歩く彼の前髪をふわりと揺らす。
言葉なくしばらく歩き続けて駐車場の灯りが遠くに見えると、繋いでいる指先に少しだけ力が加わる。


駐車場に着いたら、この手はきっと離れてしまう。

そう思うと胸が締めつけられて、思わず足を止めた私の髪が風に乗り頬を掠める。

すると、あの祭りの夜のように彼の指先が髪を優しく耳にかけてくれた。


指先が頬を掠めるだけで、どうしようもなく胸が苦しくなる。
今日何度も押し寄せたこの痛みを否定することなんて、もう無理だと思った。

愛美、ごめんね。私、やっぱり葛城さんが好きだよ――……。
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