薬指の約束は社内秘で
「私は、葛城さんを大切に想う他の誰かと同じようには、なれないと思う。だけど初めて出会ったあの日……」

穏やかに脈打ち始める鼓動に耳を傾けると、幼き日の二人の姿が頭を過った。


『これ、あげる。お守りだよ』

クローバーを差し出すその指が微かに震えていたことを。
躊躇する私の顔を祈るような気持ちで見つめていたことを。


「あの時の私は自分のことで精一杯でっ、葛城さんの想いに……気付いてあげられなかった」

私を見つめる眼差しは、あの頃と同じように優しい色を帯びていた。

変わらないことがこんなにも嬉しい。

あのとき突き動かされた想いも、きっと、ずっと変わらない……。
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