薬指の約束は社内秘で
「もう…帰ろうかな」

静寂の訪れたベッドルームに小さな呟きを漏らすと無性に寂しさが胸を襲い、隣接しているリビングルームに移動して、テーブルにサービスで置かれていたワインボトルを手に取った。


透明な白ワインをグラスに注いでいると、付き合い始めの頃に彼と約束した言葉と柔らかい笑顔が頭を過る。

『愛は、酒で一度失敗してるんだし。俺がいないときは酒禁止。約束な?』

鼓膜から響き聞こえる声に胸がチクッと痛んだけれど、「優生が悪いよ」と小さく愚痴ってからグラスを口につけた。



一人酒をちびちびしていたら余計寂しさが積もってしまい、結局最上階のバーに移動して、カウンター席でカクテルを注文した。

「はぁー。いつもは、こんなんじゃないんだけどな」

優生の約束を守ってお酒は控えていたから、ずいぶん弱くなっちゃったな。
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